1台のトラックで複数の店舗を回るMulti-drop配送は、タイの飲食チェーン・ホテル・小売チェーン向け冷蔵配送の標準的な運用形態です。しかしこの形態は、通常の配送と比べて品質トラブルが起きやすい構造を持っています。「冷蔵車を手配すれば解決する」という認識のまま導入すると、現場で想定外の問題が発生します。
Multi-drop配送とは、1台の車両が出発地(倉庫・センター)から複数の納品先を順番に回り、それぞれに荷物を届ける配送方式です。
■ 典型的な配送先数
内容: トラック1台あたり5〜15店舗程度。
■ 主な利用業種
内容: 日系をはじめとする飲食チェーン、カフェ、ホテル、コンビニエンスストア、スーパーマーケットなど。
■ 配送頻度
内容: 毎日、または週に複数回の定期配送が一般的。
■ 課題の核心
内容: 納品先(店舗)ごとに検品の手順や受入条件が異なるため、ルート上の渋滞や荷待ち時間が徐々に積み重なり、後半の店舗への遅延や温度変化のリスクに繋がりやすい。
① 店舗ごとに納品条件が異なる 納品時間・受入担当者の有無・駐車スペース・搬入口の場所・荷姿の指定など、店舗ごとに条件が異なります。チェーン店であっても店舗によって受入体制が違うケースがあり、ドライバーが現場で判断しなければならない場面が多くなります。
② バンコクの渋滞が全体スケジュールを崩す 最初の1店舗で30分の遅延が発生すると、それ以降の全店舗への納品時間がずれます。特に朝の仕込み前に納品が必要な飲食店では、遅延が店舗オペレーションに直結します。渋滞を前提としたルート設計と時間バッファの設定が不可欠です。
③ ドア開閉のたびに荷台温度が上昇する 5店舗回れば5回、10店舗回れば10回ドアを開けることになります。タイの外気温(30〜35℃)では、1回のドア開閉で荷台内温度が数度上昇することがあります。最後の店舗への到着時には、最初の店舗納品時とは荷台温度が異なる状態になっているケースがあります。
④ 仕分けミスが誤納品につながる 複数店舗分の荷物を1台に積み込む際の仕分けが不正確だと、誤納品が発生します。誤納品は再配達コスト・廃棄ロス・店舗クレームに直結します。倉庫での積み込み時の仕分け精度が、配送品質の基盤になります。
⑤ 荷待ち時間の読みづらさ 各店舗での荷受けにかかる時間は、受入担当者の状況・検品の有無・署名対応などで変動します。荷待ちが積み重なると、後半の店舗への到着が大幅に遅れます。特に病院・ホテルへの納品では、受入手続きに時間がかかるケースがあります。
Multi-drop配送での温度管理は、通常の配送(1箇所への直送)より格段に難しくなります。
□ 積み込み時
内容: 倉庫から車両の荷台へ荷物を移動させるわずかな時間でも、外気にさらされることで温度が上昇してしまう。
□ 各店舗での納品時
内容: 納品先でのドア開閉が繰り返されることにより、そこから外気が流入して荷台内の温度が急上昇しやすい。
□ 店舗前での荷待ち中
内容: 納品場所の空き待ちや検品待ちの際、荷台のドアを開けたままの状態で待機してしまうケースがあり、温度管理が著しく損なわれる。
□ 渋滞中の長時間停車
内容: バンコク市内などの激しい渋滞で長時間停車を余儀なくされると、冷却装置の稼働コスト(燃料)がかさみ、機器自体への負荷も大幅に増大する。
□ 最終店舗到着時
内容: 長時間にわたる配送ルートの終盤になるため、それまでのドア開閉や渋滞の影響がすべて蓄積し、温度が最も不安定になりやすい。
Multi-drop配送での温度管理は、通常の配送(1箇所への直送)より格段に難しくなります。
① 倉庫オペレーションと配送設計を連動させる 倉庫での積み込み順序は、配送ルートと逆順に設計するのが基本です(最初に納品する店舗の荷物を最後に積む)。この連動ができていない場合、現場で荷物の掘り起こしが発生し、温度管理と時間管理の両方が崩れます。
② 渋滞を前提とした時間設計 バンコクの渋滞を「想定外」として扱わず、ルート設計の前提条件に組み込む必要があります。朝の納品時間が厳しい店舗は、早出し・早朝出発での対応を検討してください。
③ 1台あたりの店舗数を現実的に設定する 「できるだけ多くの店舗を1台で回す」ことでコストを下げようとすると、品質が犠牲になります。配送可能な店舗数の上限は、エリア・渋滞状況・納品時間指定の厳しさによって決まります。
④ 温度ロガーで全配送を記録する どの店舗でいつ温度が上昇したかを記録することで、問題箇所の特定と改善が可能になります。記録なしでは、品質トラブルが発生しても原因追跡ができません。
⑤ 倉庫と配送を一体で管理する 倉庫と配送が別会社の場合、積み込み順・出発時刻・店舗条件の情報共有が不十分になりやすい。一体で管理できるパートナーを選ぶことで、この問題を根本的に解消できます。
タイのMulti-drop冷蔵配送では、車両の性能よりも「倉庫オペレーションとの連動」「渋滞を前提とした時間設計」「店舗数と品質のバランス」という設計の精度が品質を決めます。現在のMulti-drop配送に課題を感じている場合、まず運用設計の見直しから着手することを推奨します。